CC-linkはオワコンか?
公開日: 2025年10月25日
📝 目次 (Table of Contents)
私が導入する設備でも、既設の流用設計としてCC-Linkを採用するケースが多くあります。
しかし、規格そのものを深く理解していなかったため、今回あらためて調べて整理してみました。
CC-Linkとは?
CC-Linkは、三菱電機が1996年に開発し、CC-Link協会によってオープン化された産業用オープンフィールドネットワークです。
現在では後継としてEthernetベースのCC-Link IE TSNが登場し、高速かつ汎用的な通信が可能になりましたが、依然としてRS-485ベースの従来型CC-Linkも多くの製造現場で現役稼働しています。
その理由としては、CC-Linkは最新技術と比べると速度や機能面では見劣りしますが、シンプルで堅牢、そしてタイミングが安定している。これこそが生産現場で求められる「確実性」の本質だからです。
本稿では、EthernetベースのCC-Link IEシリーズではなく、RS-485を物理層に用いた従来のCC-Linkを中心に解説します。
CC-Linkの主な特徴
1. オープンフィールドネットワークとしての立ち位置
CC-Linkは、メーカーを問わず機器を相互接続できるオープンフィールドネットワークです。
センサー、アクチュエーター、インバータ、表示器、そしてPLCなど、幅広いメーカーの製品が相互接続可能であり、CLPA(CC-Link協会)には世界中で1,000社以上が加盟しています。
この「マルチベンダー性」により、特定メーカーに縛られず設備構成を柔軟に設計できる点が大きな魅力です。PLC側では専用のCC-Linkユニットを装着するだけで簡単に対応でき、レガシー環境でも導入しやすい構成になっています。
2.通信方式とリアルタイム性
CC-Linkの通信は、RS-485を物理層とし、マスター局と複数のスレーブ局によるトークンパッシング方式で行われます。
この方式は、通信権(トークン)をマスターから順番に各スレーブへ渡していくもので、各局は自分にトークンが回ってきた時だけ送信を行います。そのため、通信の衝突(コリジョン)が発生せず、常に一定のタイミングでデータが更新されるのです。
結果として、Ethernetのように通信が混雑して遅延が変動することがなく、数ミリ秒単位の安定した定周期通信(サイクリック通信)が可能になります。
この「定時性の安定」がCC-Link最大の強みであり、タイミングがシビアな制御用途に今も重宝されています。
3.CC-Link Ver.1 Ver2の違い
「Ver.1」と「Ver.2」は、互換性を保ちながら通信データ容量と機能を拡張した関係にあります。
基本構造や物理層は同一で、Ver.2はVer.1の上位互換として設計されています。
以下に、実務で理解しておくべき違いをわかりやすく整理します。
項目 | CC-Link Ver.1 | CC-Link Ver.2 |
|---|---|---|
登場時期 | 1996年頃 | 2005年頃 |
通信速度 | 最大10Mbps | 同左 |
最大局数 | 64局 | 同左 |
通信容量(1局あたり) | 入出力 各32点(32bit) | 入出力 各128点(128bit) |
1スレーブ最大占有局数 | 4局(最大128bit) | 8局(最大512bit) |
拡張データリンク機能 | なし | あり(拡張サイクリック通信) |
上位互換性 | ― | Ver.1機器と通信可 |
Ver.1では1局あたり入出力各32bit(4バイト)まで、最大でも128bit(16バイト)しか扱えませんでした。
Ver.2ではこれが4倍の128bit/局に拡張され、最大8局(512bit=64バイト)まで通信可能となりました。
これにより、インバータやアナログユニットなど、より多くのパラメータを持つ機器でも1ユニットで十分に通信できるようになりました。
さらに、Ver.2では、拡張サイクリック通信(Extended Cyclic Transmission) という新しい通信機能が追加されました。
これにより、「各スレーブに割り当てる入出力エリアを柔軟に設定できる」「通信データを効率的に再配置・管理できる」「上位PLCとのリンク構成を簡素化できる」といったメリットが得られます。
Ver.2マスターを導入しても、既存のVer.1機器はそのまま使えるため、既設ラインの段階的更新にも適しています。ただし、Ver.2の拡張データ容量や機能を使う場合は、マスター・スレーブともにVer.2対応機器が必要になります。
4.通信速度と距離の関係
CC-Linkは、最低速度の156kbpsを選択した場合に、最大1.2kmまでリピータ(中継器)なしで通信が可能です。これは、標準的なEthernet(1区間100m制限)と比較したときの大きなメリットの一つです。
通信速度 | 最大延長距離(リピータなし) |
|---|---|
156kbps | 約1200m |
625kbps | 約900m |
2.5Mbps | 約400m |
5Mbps | 約160m |
10Mbps | 約100m |
しかし、上記の表のように速度を上げるほど通信距離は短くなるため、ラインのレイアウトや機器配置に応じて最適な速度設定を行うことが設計の重要ポイントになります。
この「1.2kmまでリピータなしで通信できる」という特性は、Ethernet(1区間100m制限)と比べて大きなアドバンテージがあります。
ただし、最大通信速度は10Mbpsであり、現代のギガビットEthernet(1Gbps)には劣ります。
5. 配線構成と終端処理
CC-Linkはシールド付きツイストペアケーブルを使用します。
信号線は2芯ですが、実際には電源線やアース線を含むため、結線作業にはある程度の手間がかかります。
EthernetのようにRJ45コネクタをワンタッチで挿すだけではなく、導体をねじ止めして接続するため、施工品質が通信安定性を左右します。
また、通信品質を確保するためにはケーブル両端に110〜120Ωの終端抵抗を設置することが必須です。この終端処理が正しく行われていないと、信号の反射による通信エラーが発生しやすく、現場でのトラブル原因の上位に挙げられます。
6. 接続台数と通信量
接続台数は1つのCC-linkユニットで最大64局まで接続することができます。
例1:1局占有のデバイスなら64台まで接続可能
例2:4局占有のデバイスなら16台まで接続可能
※アナログユニットやインバータなどは4局占有が多く、実際には16~20台程度の接続構成が一般的です。
CC-Linkの強みと限界
【強み(使いどころ)】
- 小容量データの高速・安定通信に特化
- 長距離通信(最大1.2km)が可能
- 定時性が高く、装置の同期動作に最適
- 機器の実績が豊富で、保守部品の入手性も高い
現場的には、ライン内のI/Oリンクや、インバータ・温調器などの小規模ネットワークで今も多用されています。特に既設ラインの流用や、Ethernet化にコストをかけられない設備では現実的な選択肢です。
【限界(課題)】
- 非周期通信(イベント通信やファイル転送)が不得意
- 施工に手間がかかり、終端抵抗の管理が必要
- 通信速度(10Mbps)が大容量制御には不足
- 64局接続時はスキャンタイムが20〜40msに達する場合もあり、高応答制御には不向き
- 診断・トレース機能が弱く、トラブル解析が手作業に依存
今後の展望と移行の方向性
現在のCC-Linkは、「確実に動くこと」に特化した成熟技術として、依然多くの現場で信頼を得ています。
しかし、IoT連携やモーション制御、高速データ収集といった新しい要求に応えるには、次世代EthernetベースのCC-Link IEシリーズ(特にTSN対応版)への移行が現実的な道です。
CC-Link IE TSNは、ギガビット通信とリアルタイム制御を同一ネットワーク上で両立できる画期的な規格であり、上位システムとのデータ連携にも優れています。したがって、既設ラインの延命・改造では従来型CC-Linkを新設ラインやIoT化を見据えた設計ではCC-Link IE TSNを選択する、という使い分けが有効です。
まとめ
CC-Linkは、誕生から四半世紀を経た今でも、「安定」「堅牢」「定時」で語られる信頼の通信規格です。速度や機能ではEthernet規格に劣るものの、その確実性とシンプルさは今なお魅力的であり、
「動いて当たり前」を支える現場の縁の下の力持ちとして、これからもしばらくは姿を消さないでしょう。